どーでもイージー

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隣のトトロおじさん(5)

となりのトトロ [DVD]

 

【第1話から読むのがオススメ】

隣のトトロおじさん(1) - どーでもイージー

隣のトトロおじさん(2) - どーでもイージー

隣のトトロおじさん(3) - どーでもイージー

隣のトトロおじさん(4) - どーでもイージー

隣のトトロおじさん(5) - どーでもイージー 

隣のトトロおじさん(6) - どーでもイージー 

 


 

「どーもー。トトロでーす。」

 

そう言いながら両手を頭の上に持って行き、ウサギの耳を表現するようにパタパタ動かした。

この時、手の届く所に鈍器が無かったのは、A男にとって幸いだったろう。その事実を認識する事で幾分か冷静さを取り戻すと、途端に怒りは踵を返して、惨めさに変質した。
朝テレビで見た占い、急に命じられた仕事、出掛けの彼女、淡く描いた将来、田舎の景色、梅雨のジメジメ、繋がらないスマートフォン、肥溜めの臭い、グズグズ進まない依頼主の話、そして変質者……。ブツっと糸の切れた操り人形のようにくずおれながら、まだらに混ざった絵の具のようなグチャグチャになった今日の断片を眺めては、どこにも塗ることも出来ないそれを、ひたすら呪い続けていた。

 

「もしもし?どうされました?」

 

急に対戦相手が生気を失ったので驚いたのか、心配そうに尋ねてきた。

 

「ああ……。いや、…もう、いいんです。」

「……あの、私のせいですか?」

 

半分ぐらいはお前のせいだ、とは思ったが、もう張り合うのも馬鹿馬鹿しいのでやめておいた。どのみちもう間に合わないし、何か状況を好転できるような言い訳も思いつきそうにない。完全に疲弊しきってしまっていた。

ふと、この変態に出会ったことを遅刻の言い訳にできないものかと思ったが、どうだろう?自分をトトロだと信じてやまない、頭に被り物をした、上半身裸で下半身革ズボンの変態がいたと言った所で、信じてもらえるだろうか?これだったら、まだ本物の、あの映画のようなトトロに会ったと言ったほうが信じてもらえるだろう。

 

「いえ、そういうんじゃないんで…。なんていうかもう、ついてなくて―――」

 

どうして話だしたのか、自分でも不思議だった。なんでもいいからこの使い道のない絵の具を塗りたくってしまいたかったのかもしれない。
今日一日の出来事や、もう約束に間に合わない事、それを許してもらえるような弁解のアイデアが無いこと、それらをとつとつと漏らした。俺は今、初対面の変態に、自分のやるせなさをぶつけている、そう思いながらも語る口は止まらず、そして多分そのせいで、涙が出てきた。

 


「うんてんしゅさーーーーん!!!」

 


そこで突然トトロおじさんが叫んだ。
何事かと呆気にとられていると、トトロおじさんは運転席の方へ駆け出した。

 

「そーこー中、危ぃ険ですのでぇ、お立ちにならないでぇ、ください。」

 

すかさず運転手が注意したが、聞く耳はなさそうだ。
途中2度ほど、揺れで体勢を崩し、手すりのポールに激突しながらも運転席のそばへ辿り着き、大きな声でまくしたてた。

 

「急いで下さい!スピード出して!」

「危ないから座ってください。」

 

なぜかスピーカーから声が聞こえてくる。それが癖になっているのだろう。

 

「あの人ね、急いでるんですよ!早く、スピード出して!」

「いや、お客さん、そういうわけには……。」

「急がないと村中に言いふらしますよ!あんたがこないだ、Bさんとこのお嬢さん乗せた時、山ん中バス止めて、」

「黙れ変態!なんの証拠があってそんな事いってやがんだ!」

 

全部スピーカー越しに聞こえてくる。A男は、切ればいいのにと思った。

すると、トトロおじさんは革ズボンに手を突っ込んで、ゴソゴソと何かを探りだした。

 

「おい、何する気だ、変態!」

 

全く正論だと思いながら見ていると、トトロおじさんはズボンの中の物を一気に引き出した。―――どうやら、写真のようだ。それを運転手へ見せ、叫んだ。

 

 

「スピード、あげろぉぉぉおおおーーー!」

 


ヴオオオォォォォオオオオオ!

 


一体なんの写真だかわからないが、とにかくバスのスピードが上がった。

 

「もっと!もっと早く!」

 

バスがドンドンとスピードを上げていく。

 

A男はあのシーンを思い浮かべていた。森を山を、田んぼやあぜ道を、浮き上がるようなスピードで風のように進むねこバスが、二人の少女を運んでいく。

現実はどんなにバスが急いだ所で間に合うものではないけれど、心に風が吹きこんで、黒雲を吹き飛ばしていくように感じた。

 

 

「もっともっと!もっと早く!」

 

 

その時だった。不意に体が軽くなり、空中に浮きだした。いつかみた夢のような感覚。このまま本当に、彼女のもとへたどり着けてしまうような。これは、もしかして―――。

 

 

 

 

 

そう、事故だった。

 

 

 

 

 

オンボロバスはカーブを曲がりきれず、完全に田んぼへ横倒ダイブしていた。誰も怪我をしなかったのは奇跡としか言い様がない。

泥だらけになりながら車外にでて、道路からバスを眺めたら、そらそうだよなと、妙に冷静な感想が浮かんだ。これを絶望というのだろうか?徒労というのだろうか?とにかくそれ以上の感想も感情もないまま、男3人、茫然とバスの底を眺めていた。

 

【続き】

隣のトトロおじさん(6) - どーでもイージー

 

 
☆あの素晴らしい愛をもう一度
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