隣のトトロおじさん(6)
【第1話から読むのがオススメ】
泥だらけになりながら車外にでて、道路からバスを眺めたら、そらそうだよなと、妙に冷静な感想が浮かんだ。これを絶望というのだろうか?徒労というのだろうか?とにかくそれ以上の感想も感情もないまま、男3人、茫然とバスの底を眺めていた。
―――その後、バスに備え付けの無線がある事に運転手が気づき、会社に連絡を取ったのだが、他に直ぐ駆けつけられる車両もないので、結局次のバスを待つしかない、という結論だった。次といっても、その次が来るのは3時間以上先だ。もはや今日中に帰ることすら絶望的だった。
だが同時に、これだけの大事が起きたのだから申し訳ぐらいは立つのではないかという思いもニョキニョキと育ちだしていた。だとすれば、一刻も早く事の仔細を伝えなくては。先ほどバスが走りだした時よりも、むしろ焦っていた。何しろ移動手段が無い上に電波が届かないのだ。
ここではたと無線機の存在に思い至った。バス会社に連絡先を伝えて、伝言を頼めば良いのではないか?そう思い、運転手に掛けあってみたが、
「ガソリン臭かったから、やめといた方がいいと思うけど。まあ、使いたかったら自分で使って。」
と言われ、さすがに尻込みせざるを得なかった。A男は、傍らで存在感を消したいと言わんばかりに体育座りをしている変態に視線を落とした。
「……………。」
完全防御態勢だった。それならばと、なおも見つめ続ける。
「…………あ。あーーーー!!!」
何を思ったか、いきなり立ち上がってこう続けた。
「連絡、連絡とりたいんですよね?電波のある所にさえ行ければ、問題無いですよね?」
「ま、まあ。」
「よーし、ちょっと待っててくださいよー!」
そう言っていきなり、田んぼにポツリと建っていた小屋へ向かって走りだした。
一体何事だと思って見ていた時、不意にに右半身に熱さを感じた。バスが炎をあげていたのだ。命拾いをしたという感覚よりも先に、これでもう、歩くしか無いという決断が頭に浮かんでいた。
ガックリ肩を落としている運転手に、自分の事情と歩いて先へ進む旨を告げた。
「後で難癖つけたりしないでくださいよ。」
ここまでろくでもないとむしろ怒りもわかないもので、特に何の反応もせずに歩き出した。
それにしても、どのぐらい歩いたら電波のある所までたどり着けるのだろうか?まあ最悪、後続のバスがやってくるのだろうし、それまであそこで陰鬱な気分で待っているよりは幾分かマシだろう。
だが、歩き出していくらもしない内に後悔が押し寄せてきた。夕暮れ間近とはいえ、梅雨時の蒸し暑い中、泥にまみれたスーツで歩いている上に、なにより今日一日の精神的肉体的疲労は、本人が思っている以上に蓄積されていた。それでも、彼女の顔を思い浮かべて、一歩ごとに湧いてくる後悔を打ち消した。早く、早く電波のある所へ。気ばかりが急いて、何十メートルも進まない内に、スマホをチェックする。
20回ほどチェックして、何をやっているのかと、少しばかり自分を責め始めた頃だった。
「ぉぉぉおおおおおおーーーい!」
後ろから忌々しいあの声と、タイヤが路面を走る音が聞こえてきた。しかし、バスにしては妙に音が軽い。後ろを振り向いた瞬間、A男は気が遠くなった。
それは、あたかもスローモーションで、間延びした距離を縮めてきた。
「ネーーコーーー!ねーこーばーすーーーー!」
満面の笑みで、荷物運搬用の一輪車、通称ネコを押してくる。
A男は、この時のめまいに、今年初めての夏を感じていた……。
【続き】
将軍様が「一休や。この屏風に描かれたゴリラが夜な夜な出てきて、ドラミングをするので困っておる。見事退治してみせよ。」って言うので、「では、私が捕まえますので、その屏風からゴリラを出してください。」って言ったら、「よしわかった。」ってホントにゴリラが出てきて城外まで投げ飛ばされた。
— 水輪ラテール (@minawa_la_terre) 2014, 7月 24