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どーでもイージー

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隣のトトロおじさん(1)

バカ創作

となりのトトロ [DVD]

いつにもまして鬱陶しい、ある梅雨の出来事だった。

 

A男はバスを待っていた。

 

停留所の看板に付けられた時刻表を、不良が因縁でも付けるかのように睨んでいたが、おもむろに人差し指で17の数字を指し、そこから右へなぞっていった。26へたどり着いてから、再度その数字をトンと叩き、今度はその人差し指を、自分の腕時計へと移し、つぶやいた。

 

「あと10分。」

 

周囲を見渡すA男。鬱蒼とした林の中にアスファルトの1本道が通っている。もう久しく手入れされていないのだろう、白く、でこぼこしている。

かれこれ1時間ほど、こうして時刻をチェックしては周囲を見渡しているが、先程から車はおろか、人っ子一人通らない。

 

「ホントに時間通り来るのかよ?」

 

寂しさと不安と焦りとで、つい独り言が口をつく。看板が赤錆でまだら模様になっている様や、その傍らに建てられた古い木造の、風が吹いたら壊れそうな停留所も、A男の猜疑心を煽っていた。

 

ひとまず落ち着こうと停留所に腰掛け、スーツのポケットから何気なくスマホを取り出し、そこでシマッタと気づく。この辺り一帯、電波が入らないのだ。習慣とは恐ろしい物で、昼間から何度この無駄な行為を繰り返したことか。そのたびに、疲労と不安が蓄積した。

 

ため息を吐きながらポケットに戻し、ネクタイを緩めると、力なくうなだれ、目を閉じた。

 

「あーーー、やばいよなーーー。どーすっかなぁーーー。」

 

「どうされましたか?」

 

「やー、今日彼女の両親に挨拶、……!?」

 

突然返ってきた何者かの問いかけに驚き目を開けると、隣に男が座っていた。

 

「そうですか。ご両親へご挨拶に。それはそれは、うまくいくといいですねぇ。」

 

「や、あの、」

 

「何でしょう?」

 

男の風貌を眼球がとらえた瞬間、不意に、いつか観たアニメ映画のワンシーンがフラッシュバックした。林、バス停、そして謎の男が手にしている青い傘。そうまるで、となりのトトロではないか。…いや、となりのトトロではない。フラッシュバックした映像と、目の前に存在している現実との間には、絶望的な違いがあった。

隣には、上半身裸の中年が、頭にトトロの被り物をして座っていたのだ。自作だろうか?トトロ人形のお腹部分をくりぬいて被っているように見える。それにしてもヒゲが青いし、ハッキリわかるぐらいのケツアゴだ。やはりケツアゴの割れ目部分は剃りにくいのだろう、カミソリでついたであろうキズが見える。そして下半身は黒のレザーパンツを履いている。こんな蒸し暑い最中にもかかわらずだ。そしてその手には、あの作品を思わせる、濃紺の傘…。

もしかしてもしかすると、トトロのつもりなのか?コスプレイヤーというやつか?いや、トトロ部分は被り物と傘だけだ。コスプレという概念からは完全に外れてしまっている。…それともやはり、ただの変態だろうか?うん。ただの変態だろうな。

 

「あ、いえ、なんでもないです。」

 

A男は爆速で関わらないと決めた。と同時に、その男をトトロおじさんと名付ける事にした。

 

「ところで、先ほど何やら深刻な面持ちでしたが

 

「あ、や、大丈夫です。全然。大丈夫なんで。」

 

すぐさまA男はカバンの中から適当な書類を取り出し、仕事中ですオーラを出すことにした。流石にこうしてしまえば、おいそれと変な事にはならないだろう。危険人物には関わらないのが一番だ。とにかく見ない。意識しない。コチラから刺激さえしなければ、きっとやり過ごせる。

何かあったら直ぐに逃げ出せる準備だけして、努めて冷静に振る舞った。

 

数分の沈黙。読んでもいないのにポーズでめくっている書類の音だけが辺りに響く。

幾分落ち着きを取り戻したA男が、やれやれなんとかやり過ごせそうだと足を組み替えた時だった。

 

 

………実は私、トトロなんですよ。」

 

 

 

瞬間、時間まで凍りついたようだった。A男はただひたすら、何かの聞き間違いであることを祈った。自分に話しかけられたのではないと心に言い聞かせた。

梅雨のジメジメとした空気が、急速に粘度を増して皮膚にまとわりついてくる。額のあたりから一滴の汗が、首筋へと滑っていくのがわかった。

 

「知ってるでしょ、トトロ?TOTORO、トトロ。」

 

A男の思考はもはや、バスよ来いバスよ来い早くバスよ来い、と呪文のように繰り返すだけになっていた。ただもう石像のように硬直していると、突然、太ももの一点に圧力を感じた。

 

「あてっ!ちょ、なにすんですかっ!」

 

トトロおじさんが傘の先で突いてきたのだ。突然だったのと警戒心が相まって、大して痛くもないのに、大げさに反応してしまった。

 

…………トトロ、知ってる?」

 

何なんだコイツは!?A男は心の中で叫んだ。一瞬口から漏れそうになったが、変に刺激して危害でも加えられたらたまらない。とにかく、一分でも早く帰って遅刻による被害を最小限にしたいのだ。今日しかないからと、2ヶ月も前に組んだ重要な予定だ。台無しにするわけにはいかない。ココへ来る前にメッセージの一つも残しておけばこんな事にはならなかったのだが、それは日中、散々悔いてきた。

腕時計をチラリと見て、バスの到着予定時刻までもう5分も無いことを再確認する。数分乗り切ればいい。バスさえ来れば、例え同乗したとしても、離れた座席に座ればいいだけだ。A男は意を決して、このトトロおじさんと対峙することにした。

 

―――それが、すべての始まりだった。

 

【続き】

隣のトトロおじさん(2) - どーでもイージー

 

 

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