どーでもイージー

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隣のトトロおじさん(7)

となりのトトロ [DVD]

 

【第1話から読むのがオススメ】

隣のトトロおじさん(1) - どーでもイージー

隣のトトロおじさん(2) - どーでもイージー

隣のトトロおじさん(3) - どーでもイージー

隣のトトロおじさん(4) - どーでもイージー

隣のトトロおじさん(5) - どーでもイージー

 


 

満面の笑みで、荷物運搬用の一輪車、通称ネコを押してくる。


A男は、この時のめまいに、今年初めての夏を感じていた……。

 

「さ、遠慮なく乗って下さい。」

 

緑色のネコの持ち手を引き上げ、荷台を前方に傾けて、人が乗りやすいよう構えていた。しかも、誇らしげに。一体どこからその自信が湧いて出るのだろうか。

苛立ちを感じてはいたが、既に疲労困憊だった。この状態で歩き続けるよりは、どうせ直ぐに音を上げるのは目に見えていても、乗って少しでも距離を稼げればマシだと思い、特にうんともすんとも言わずに、傾けられた荷台に腰掛けた。

 

「さあ、遅れた分、取り戻しますよぉー!」

 

トトロおじさんが持ち手を押し下げるとネコの荷台は水平になおり、A男のお尻はV字型の底面に滑り落ちて、尾てい骨を打った。
その事には特に気づきもせず、ネコの安定を確認するやいなや駆け出した。

 

「ねこバス、しゅっぱーーーつ!!!」

 

 

それは思っていた以上に早かった。

 

 

ちなみに、猫と呼ばれるこの運搬器具は、一輪車であるが故に、左右のバランスが重要である。少しでもバランスがどちらかに傾けば、片方の手にその重量物の重さがもろに掛かってくる。つまり、運搬する物の重量が重ければ重いほど、ちょっとしたバランスの崩れが、転倒につながりやすくなるのだ。

 

A男は、言った。

「あの、もうちょっと、ゆっくり…」

「私は大丈夫ですよ。なぜなら、トトロですからね!さぁ、しっかり掴まっててくださいよーーー!」

 

トトロおじさんは、さらにスピードを上げた。

 

 


「おおぉぉぉぉぉおおおおおおぁぁぁあああああ、あ、つっ、」

 

 


ズザァァアアアアア


今日、2度目の事故だった。

 

 

道路に投げ出され2メートルほどアスファルトの上を滑ったA男の隣で、横倒しになった一輪車のタイヤだけがまだかろうじて回っている。
A男は、擦り傷がイタイとかそういう事よりも、もういいやと投げやりな事を考えていた。

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

トトロおじさんが駆け寄ってきて声を掛けてきたが、もう返事をする気力もなかった。

 

「ちょっと、生きてますか?」

 

頬をペシペシと叩くので、流石にうざったくなり、ぼそっとつぶやいた。

 

「もう、いいです。」

 

それっきりA男は、身体に力を入れるのをやめた。
仰向けになって否が応でも見上げざるをえなかった空は、いつの間にか雲で覆われていた。
雨でも降れば、スーツの泥ぐらいは落ちるだろうか?などと自嘲的な考えが浮かんで、いよいよ底なし沼に沈んで行くように感じ始めた時だった。
グイと身体を引っ張られ、横倒しの荷台に押し込まれた。次の瞬間には、垂直に視界を遮っていた地面が90度動き、きちんといつもの位置におさまった。

 

「もう、いいですって。」

 

A男は身体と同じように力なく言ったが、あんまり力無さ過ぎて聞こえなかったのか、ネコは再度走り始めた。今度は、先程までのような無謀さはなく、それなりの速度を保ったまま、淡々と。
その進み方を感じて、A男はそれ以上何も言わない、何も期待しない、何もしない、ただもう波に漂う海藻のようにしていようと決めた。

 

 

―――それから1時間程経っただろうか。途中ポツポツと降りだした雨は、やがて勢いを増し、いまではそれなりの勢いになっていた。ネコの上には、濃紺の傘が開いている。
雨の勢いに反比例するように、おじさんの進み具合は鈍っていった。人間一人を一輪車で1時間も押し続ければ、当然だろう。1歩ずつ確かめるような足取りになっていた。

 

ズチャ!グブブ。

 

ぬかるみに足を取られて、膝をついたようだ。手を離さずに、ネコのバランスは保っていた。再び立ち上がり、進みだす。ぬかるみの中でネコを進めるには、いつも以上の力を要する。

 

グチッ、グチッ、グチッ、ズチャ!グジャア。

 

また足を滑らせ、今度は盛大に転んだ。ネコからギリギリまで手を離さなかったおかげで、台車から投げ出される事はなかったが、おじさんは顔からぬかるみに突っ込んでいた。

なおも立ち上がろうと手をつくが、その手すら満足に力が入らず、滑り、またぬかるみに突っ伏す。

 

「もういいですって!」

 

流石に見かねて、大きな声で言った。
既にザアザアと降っている雨の音にかき消されて、聞こえなかったのだろうか?膝を抱えるように身体を折り曲げ、膝に手を付けるような形で、なんとか立ち上がり、ネコに近づいてくる。

 

「もういいんです、ほっといて下さい!」

 

ネコから降りて、今度は聞こえるように、至近距離で叫んだ。すると、おじさんはA男の両肩を掴んだ。

 

「私はね、森の妖精なんです。大丈夫ですから、奇跡、起こせますから。」

 

そう言って、またフラフラとネコへ歩き出そうとするが、A男の両肩から手を離した途端、支えを失って崩れ落ちた。

A男は、ネコをトトロおじさんのそばへ移動し、自分が先ほどそうされたのと同じように、おじさんを荷台に乗せた。

 

「あの…」

「いいから。」

 

そう言って、A男がネコに手をかけた時だった。

 


プルルルルルルル

 


スマホが鳴った。

 

 【続き】

隣のトトロおじさん(最終話) - どーでもイージー

 

 
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